ChatGPTやClaudeを使っていると、ふと気になることがあります。「このデータ、本当に外部に送信して大丈夫だろうか」「もう少し思い通りに動かせないだろうか」そんな疑問から、ローカルLLMに興味を持つ方が増えています。
私自身、50代になってからAI開発の世界に足を踏み入れ、最初はクラウドサービスばかり使っていました。しかし、実際にローカルLLMを試してみると、その自由度の高さに驚かされました。まるで、メインフレームからUNIXワークステーションに移った時の感覚に似ています。
ローカルLLMの技術的な魅力は明確です。プライバシーとセキュリティの完全な制御、API課金からの解放、システムプロンプトの完全なカスタマイズ、そしてオフライン動作の実現。特に企業のコンプライアンス要件や、大量データ処理時のコスト削減効果は絶大です。
一度の投資で継続利用でき、使用量制限もありません。加えて、生成パラメータの細かな調整やマルチモーダル対応など、クラウドサービスでは制約のある領域での自由度も魅力的です。
ただ、選択肢が多すぎて「結局どれを選べばいいのか」と迷ってしまうのも事実です。今回は、技術的な背景を理解して判断するポイントについてを書いてみます。
ローカルLLM選択ガイド2025 - 多様化する選択肢をどう整理するか
1. はじめに ローカルLLMの選択肢爆発
1.1 数年前と今の状況比較
2023年頃、ローカルLLMといえばllama.cppがほぼ唯一の選択肢でした。Georgi Gerganovが公開したこのC++実装は、Meta社のLLaMAモデルをCPUでも動かせるソリューションとして注目を集めていました。当時は、このllama.cppをコンパイルし、コマンドラインで操作することから始めるしかありませんでした。
しかし現在では、状況は大きく変化しています。llama.cppは依然として重要な基盤技術ですが、その上に多様なツールが構築され、選択肢が爆発的に増加しました。Ollama、LM Studio、そして全く異なるアプローチのvLLMまで、目的や技術レベルに応じて選べる時代になっています。
多様化の要因
技術的な要因としては…
- 量子化技術の進歩と格納・配布するためのフォーマット(GGUF形式など)が普及
- ハードウェア対応の拡大(NVIDIA以外のGPU、Apple Silicon対応)
- 70億パラメータモデルが16GBメモリで動作可能に
市場的な要因としては…
- 企業のデータプライバシー要件の厳格化
- API コストの問題
- 個人ユーザーのカスタマイズ需要の高まり
特に技術的ハードルの大幅な低下で、2年前はLinuxでのコンパイル作業が必須でしたが、現在はWindowsやmacOSでもGUIから簡単にローカルLLMを利用できるようになっています。
1.2 「選択肢が多すぎる」問題
豊富な選択肢は歓迎すべきことですが、「何をどう選べばいいのか分からない」という選択疲れも生んでいます。llama.cppは汎用性を重視し、vLLMは高性能を追求し、Ollamaは開発者の利便性を、LM Studioはエンドユーザーの使いやすさを重視するなど、各ツールの設計思想と得意分野は大きく異なります。また、vLLMのような新しい技術については十分な情報がない印象もあります。
今回は、ローカルLLMの技術的な関係性や各ツールの設計思想を明確にしてみたいと考えています。
参考
2. 現在の技術的状況
2.1 技術的関係性の整理
ローカルLLMの技術を理解するには、まず全体の構造を把握することが重要です。現在のツールは、大きく2つの層に分かれています。
エンジン層は、実際にAIの推論処理を行う基盤技術です。ここにはllama.cppとvLLMという2つの主要なエンジンがあり、それぞれ異なる設計思想を持っています。エンジン層は、処理速度やメモリ使用量といった根本的な性能を決定する部分です。
インターフェース層は、エンジンの機能を使いやすい形で提供するツールです。「Ollama」や「LM Studio」がここに位置し、どちらも 内部的には、ローカル推論のデファクトスタンダードであるllama.cppプロジェクトから派生した、あるいはその中核をなすggmlライブラリを推論バックエンドとして利用しています。
この関係性は、WindowsというOSの上で、ExcelやWordといった異なるアプリケーションが動作する構造に似ています。基盤となるエンジンがあり、その上で用途に応じた様々なツールが動作するのです。
重要なのは、これらが競合関係ではなく補完関係にあることです。例えば、まずはLM Studioで基本を覚え、慣れてきたらOllamaで開発に活用し、本格的な運用ではvLLMを検討する、といったことも可能です。
2.2 コアエンジンの2つの系統
項目 | llama.cpp系統 | vLLM系統 |
---|---|---|
設計思想 | 「どこでも動く」汎用性とアクセシビリティ | 「最高の性能」高スループットなサーバー運用 |
開発背景 | 個人開発者による汎用性重視 | 大学研究→企業本格運用想定 |
ハードウェア対応 | Windows/Mac/Linux、多様なGPU | 主にLinux、NVIDIA GPU最適化 |
メモリ効率 | GGUFによる量子化モデルの効率的な格納 | KVキャッシュの浪費を約80%から4%未満に削減※ |
適用場面 | 個人利用、デスクトップアプリ、プロトタイピング | 本格的な商用サービス、高負荷なAPIエンドポイント |
- ※ PagedAttention技術により、従来60-80%にも達していたKVキャッシュのメモリ浪費(断片化による無駄)を4%未満にまで劇的に削減。
llama.cpp系統の特徴
vLLM系統の特徴
2.3 GUIをもったユーザーフレンドリーツールの登場
ツール | 対象ユーザー | 主な特徴 | 操作方法 |
---|---|---|---|
Ollama | 開発者 | モデル管理の簡素化、API統合 | コマンドライン中心 |
LM Studio | エンドユーザー | 設定ほぼ不要、内蔵RAG機能 | 完全GUI操作 |
Ollama(開発者向け)
- シンプルなコマンド操作(
ollama pull mistral
など) - 設定ファイルによるカスタマイズと共有
- 既存アプリケーションとのAPI連携
- 開発利用に最適
https://github.com/ollama/ollama
LM Studio(一般ユーザー向け)
- インストール後すぐに利用開始
- マウスクリックですべて完結
- 技術知識ほぼ不要の直感的操作
3. おわりに 「正解」ではなく「適解」
ローカルLLMの技術選択は、単なるツール選びではありません。データ主権、コスト予測可能性、技術的自立といった戦略的な投資でもあります。自分が思ったのは以下のような使用用途ではないかと考えます。
各ツールの適用場面
- 個人での学習 LM Studio(直感的操作)
- チームでの開発 Ollama(効率的ワークフロー)
- 企業での本格運用 vLLM(高性能追求)
まずは手軽なツールで基礎を固め、必要に応じて高度なツールに移行する段階的アプローチを取っていくのが良いでしょうかね。
今後のLLM技術の方向性
これからの時代は、クラウド型LLMとローカル型LLMが明確に2分化していくと考えています。
ローカル型LLMの3つの進化方向
一方で、より高度で複雑な推論を担うクラウド型LLMも同時に発展していくでしょうね。 2つの選択肢をどう使い分けるかの判断は、まだ人間に委ねられている…かな🤔
【参考】